夏休みでNYの一人旅をしていた先輩社員(黒坂・現TOKYO FM社長)と連絡が取れた。ハドソン川沿いのホテルに宿泊、当日の朝、WTCに行こうという矢先のテロだった。
報道ディレクターだった彼が記者となり、携帯で刻々と東京のスタジオに入れる生リポートが特番の骨格になった。
声は不思議だ。あれほど凄惨な映像なのに、人の声を聴くとまだ大丈夫だ、希望はあると実感させられた。そんな特番体制が数週間続いた。
NY現地のラジオ局がジョン・レノンの「イマジン」をかけると戦意を削ぐと批判される事態になったが、それにひるまず多くのDJはこの曲を流し続ける。「憎しみの連鎖はいけない」。そんな思いもあったのだろう。
僕たち日本の局にも「イマジン」のリクエストが多く寄せられ、平和を願うメッセージとともにオンエアした。
911後、アメリカはビンラディンをかくまったとアフガニスタンのタリバン政権への攻撃を開始する。この「テロとの戦い」で多くの人命が失われ、バイデン大統領が追悼演説で触れた「団結」どころか、「孤立と分断」がむき出しになった20年だった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年10月1日号