
武田:映画版ではムーン・ウォークみたいな動きもあったのですが、なにぶん70歳の役なので、それほど激しい踊りはないです。「僕、もうちょっと体が動きますよ」ということを演出の方にお伝えしたので、これから増えるかもしれません。歌も朗々とは歌わずに、なるべくセリフの延長で歌うように指示されています。
林:そうなんですか。映画と舞台とはちょっと違うわけですね。ヒロインのナンシーは、濱田めぐみさんとソニンさんのダブルキャストですね。フェイギン、ナンシー、オリバーと子どもたちのほかにも、大勢の方が出るんですよね。
武田:トータルで95人、子どもだけで54人ですね。
林:子どもたちとは仲良くなったんですか。
武田:それが今、コロナで差し入れ禁止なんですよ。お菓子とか、モノで釣ろうと思っていたのでなかなか(笑)。
林:アハハハ。舞台の名作でいえば「レ・ミゼラブル」が1830年ぐらいで、パリとロンドンの違いはありますけど、「オリバー!」も同じころですよね。産業革命で格差が広がって、貧民街に住む人たちは盗みでもしなきゃ生きていけない。対比するように上流社会にいっそう富が集まって。
武田:今回の上演にあたり、イギリスの演出家とスタッフの方が日本に20人以上来てくださっていますが、彼らはイギリス人として、世界を変えたと言われる産業革命に対するプライドをすごくお持ちなんですよね。今でも経度0度はロンドン郊外ですし。もちろん、産業革命は貧富の差を生んでしまったけれど、その大変な時代を乗り越えたご先祖さまがいたから、今の世の中があるという誇りとともに、当時虐(しいた)げられた人たちに物語のスポットを当ててあげることが、彼らイギリス人にとってのレクイエムなんじゃないかと思うんです。
林:ああ、なるほどね。
武田:「虐げられて生きたことを、みじめに演じてほしくない。もっと元気に、もっと大声で演じてくれ」って貧民窟の子役たちに常に言ってますから。
林:やっぱりミュージカルっていいですよね。私、オペラも大好きですけど、ミュージカルはまた違う魅力があって、みんなが集まって合唱したり、一緒に踊ったり、すごくすてきだと思いますよ。人の感情を全開にさせてくれて。