イラスト:唐橋充
イラスト:唐橋充

 とりあえずコロナの発症者も出ず無事に稽古を終えられたことにホッとしつつ、明日からの劇場での作業に不安がつのる。

 今頃劇場ではスタッフのみなさんが大急ぎでセットを組み上げたり、照明や音響、衣装やメイクの準備を進めている。

 明日からの作業で、照明と音響、転換を、初めて本番使用で作っていくのだ。それでやっと最後の完成形が見えてくる。

 照明や映像や音響、もちろん打ち合わせは済ませているものの、実際、劇場で見てはいないので色々と調整する必要が出てくる。劇場で初めて出てくる課題も絶対にある。完成するまで不安は尽きない。

 人間、こうしてずーーーっと漠然とした不安に生首絞められているのがきっと、いちばんメンタルによくないと思う。

 とはいえ私は元来がさつなところもあるし、楽観主義者であるから何とかやれるのだと思う。

 どこかで「まあ、なるようにしかならない」と腹を括って落ち着く。

 しかし明日からもギリギリまで面白い芝居にするために手を尽くしきりたい。

 それが、幕が明けてからの、お客様の幸せと、演者とスタッフの幸せにつながるのであるから。

 正解のないものを作ってはいるのだが、歴史があり、セオリーがある。めちゃめちゃ勉強した。最終的にはその自分を信じるしかない。

 隣の席でご婦人の膝の上に座っている2匹のチワワがじっと私を見つめている。

 さっきからずっとその視線を感じながら書いている。

 きっと私は険しい顔をしているだろう。

 はっ。

 反対隣にいつの間にか柴犬もいて私を見ている。

 3日後には舞台の上で観客の視線にさらされているであろう私を、今日は犬たちが見つめている。

 はっ。

 後ろにはミニチュアダックスもいる。

 いつの間にこんなに犬に囲まれていたのだろうか。

 なんだろう、癒やししかない。

 犬の視線には癒やししかない。

 こんな絶好の犬の散歩日和にテラス席で作業してよかった。

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もうひとつの「癒やし」の視線が…