領域を問わず幅広い事業を展開するDMM。成功の裏には失敗を恐れない企業文化があった。AERA 2021年10月11日号は、同社の亀山敬司会長に取材した。
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「辞表を書くしかない……」
合同会社DMM.comの電子書籍事業部の細山田智部長は、深夜に一人で頭を抱えた。
今年3月、電子書籍サービス「DMMブックス」で初回購入者が100冊まで70%オフで書籍を購入できる大型キャンペーンを実施したときのこと。これが大きな失敗につながった。
当初はそれほど話題にもならなかったが、あるユーザーのツイートをきっかけに話題が拡散。上限ギリギリまで購入する会員が続出した。気づけば予算を上回るほどの大反響。たくさんの会員を得られた一方で、60億円の赤字が残った。
想定外の事態に、青ざめた顔で報告にきた細山田さんを前に、同社の亀山敬司会長(60)がやんわりとした口調で言った。
「まいったねぇ」
亀山会長といえば、若くして起業家人生をスタートし、その名を上げたことで知る人もいるだろう。同社では会長として、動画配信、オンラインゲーム、オンライン英会話、3Dプリンターなど多岐にわたる事業を展開してきた。
それだけに失敗はつきものだ。
「ミスを責めるとみんな怖がって行動しなくなる。仕事をやっていれば、成功も失敗もあるよ。失敗しちゃったものは戻らないから、反省しているやつを怒ってもしょうがない。正直60億円の損害は痛いけど、日頃『失敗を恐れるな』と言っている手前、やせ我慢するしかないよね」(亀山会長)
■報告できる空気を作る
登録した会員をがっかりさせないために今後も必要ならキャンペーンをするよう、細山田さんに伝えた。一時は辞めるしかないと腹をくくった細山田さんだが、目下、奮闘中だ。
DMMにも、失敗を肯定する文化が根付いている。
肯定の理由は、二つある。一つは、失敗をごまかさずに報告できる空気を作るため。亀山会長は言う。
「人って良いことは報告にくるけど、悪いことは言いにくいもの。前向きな失敗を感情にまかせて怒ったら、みんな隠すようになってしまう。でもそれは会社が腐ってしまうからダメ」
もう一つは、社員に臆せず挑戦してもらうため。
「最近、入社した新卒や中途採用は、空気を読みながら失敗しない教育を受けている人が多い。言われたことに従順に応えるだけじゃなく、違うと思うことは言って、失敗を恐れず自分で問題を作れるようになってほしい」