――日本の高齢者は友人がいない人が多いというデータもあります。

 家族持ちの人たちを見ていると、家族のほかに人間関係を作ってこなかったのか、と本当に不思議ですね。「この人から家族を引き算したら何が残るんだろう」と思うことがあります。男性はとくに妻への依存度が高いですから、老後も妻さえいたら十分だと思うのかもしれません。でも妻に先立たれたら何もなくなってしまいます。

60歳以上の男女を対象にした国際比較調査。同性の友人も異性の友人もいない人の割合は、日本がもっとも多く、とくに男性は40.4%と突出している。
<出典>内閣府「令和2年度 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」
60歳以上の男女を対象にした国際比較調査。同性の友人も異性の友人もいない人の割合は、日本がもっとも多く、とくに男性は40.4%と突出している。 <出典>内閣府「令和2年度 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」

 友人もいなければ家族もいないという、本当に孤立した人も確かにいます。でもその人たちも、介護保険と医療保険というインフラを利用することはできます。

 面白い話があります。石垣島には、死に場所を求めて移住する人がいます。全員、男性だそうです。アパートを借りたり、都会よりも安いから家を買ったりして、住み着く。でもその人たちは、現地のコミュニティーと交わったりせず、年金を受けて一人で暮らします。

 その人たちも病気になったり要介護になったりすれば、介護保険と医療保険を利用します。ケアマネジャーやホームヘルパーに支えてもらっているのですが、石垣島の人たちはとても親切だから、その後始末まで考えてくれる。「亡くなったら家族に連絡しましょうか」と聞いたら、「家族はいない」「連絡しないでくれ」と言われるそうです。それでも家族の連絡先がわかっている場合は、死後、遺族に「遺骨を引き取ってくれませんか」と通知すると、受け取りを拒否されたり、「宅配便で送ってくれ」と言われたりするとか。

 家族と縁を絶った人でも、介護保険と医療保険があれば、ちゃんとした最期を迎えさせてくれる。そこまでできる社会保障制度を私たちは作りあげたのです。

■介護現場の経験値は世界に誇れる

 一方でさびしさの問題は、制度では解決できません。

 ずっと一人で暮らしてきたためさびしさ耐性がついて、お友達がいなくても平気という人はけっこういます。でも、家族がいないことに不安を感じて、積極的に人間関係をメンテナンスしてきた人もいます。人間関係は、種をまいて水をやらないと育たないものです。放っておいてできるものではありません。女おひとりさまはそこを上手にやっていますよね。

――一人暮らしで認知症というケースも近年増えていると思います。

 私はかつて認知症に苦手意識がありましたが、今はなくなりました。認知症でおひとりさまでも、最期まで自宅にいられた事例が蓄積されてきたからです。家族の都合で施設に入れられるのではなく、認知症のおひとりさまでも在宅でそれなりに機嫌よくしていける。その事例を支えているプロが現れてきたことも大きいでしょう。

 この20年間の、介護保険による現場の経験値はすばらしく進化しました。かつて介護保険がなかったころには考えられなかった「在宅ひとり死」の選択肢が生まれ、不可能が可能になってきました。私はこれを世界に誇れることだと思っています。

(構成/白石圭)

※週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん 2022年版』から

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