481社の創業にたずさわったという渋沢栄一(渋沢栄一記念館提供)
481社の創業にたずさわったという渋沢栄一(渋沢栄一記念館提供)

『論語と算盤』において、栄一は「真正の利殖法」について、以下を示しています。

「もちろん世の中の商売、工業が利殖を図るものに相違ない。もし商工業にして物を増殖するの効能がなかったならば、すなわち商工業は無意味になる。」

 利殖(成長)を求めない企業の存在意義がないということです。しかし、むやみに成長すれば良いと栄一は考えていた訳でもありませんでした。

「真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものでないと私は考える。」

 つまり、サステナブルな経済活動に必要なことは、一人ひとりの意識と行いであると栄一は今から100年以上前でも考えていたようです。

 「ただ、とかくは空理空論なる仁義というものは、国の元気を担喪し、物の生産力を薄くし、遂にその極、国を滅亡する。」

 しかしながら、自分は良いことしているんだという自己満足は、真正の仁義ではなく、浮いた状態で現実味がない。斎藤幸平氏の言葉を借りれば「アヘン」であるということを栄一も指摘しているようです。

 一方で、仁義を掲げていた栄一は決して「脱成長」を主張していたわけではありません。 

「私が常に希望する所は、物を進めたい、増したいという慾望というものは、常に人間の心に持たねばならぬ。しかしてその慾望は、道理によって活動するようにしたい。この道理というのは、仁義徳、相並んで行く道理である。」

 相手を踏み倒しても、搾取しても、自分の利益を増やしたいということは道理ではないということです。がん細胞には意識がありませんが、人間には良識があります。Takeだけではなく、Giveという良心です。

◆渋沢栄一流「成長と分配」

 渋沢栄一が目指していた新しい時代の豊かな社会とは、成長「か」分配ではなく、成長「と」分配です。渋沢栄一は『論語と算盤』の「防貧の第一要義」で以下を示しています。

 「人道よりするも経済よりするも、弱者を救うは必然のことであるが、さらに政治上より論じても、その保護を閑却することはできない筈である。」

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