渋沢健氏(筆者提供)
渋沢健氏(筆者提供)

 社会における弱者を保護して格差を是正することは、人道的にも、経済的にも、政治的にも当然のこととであると栄一は考えていました。

 「ただし、それも人に徒食悠遊させよというのではない。なるべく直接保護を避けて、防貧の方法を講じたい。」

 徒にバラマキすることに栄一は否定的でした。全国民にベーシックインカムを与えることより、一人ひとりが自分の可能性を発揮して自己実現できる社会を築くことが防貧へとつながると栄一が現在に蘇ったら提唱するのではないでしょうか。栄一の時代の資本主義でも、現在の「新しい資本主義」でも、雇用の創造による価値の創造という重要な役割は変わりません。ただ、令和日本に求められているのは、ブラック企業による搾取的な雇用ではなく、雇用者の自己実現と成長を提供している企業でありましょう。

 渋沢栄一が描いていた資本主義は成長に留まることなく、分配という考えもありました。

◆バラマキと分配の違い

「如何に自ら苦心して築いた富にした所で、富はすなわち、自己一人の専有だと思うのはひとり大いなる見当違いである。要するに、人はただ一人のみにては何事もなし得るものでない。国家社会の助けによって自らも利し、安全に生存するもできるので、もし国家社会がなかったならば、何人たりとも満足にこの世に立つことは不可能であろう。」

 「自己責任」とは、自己のことだけを見ていれば良いということではなく、自己が全体への責任を果たすという意味だ、と栄一は言っているようです。

 栄一の言葉を読み返すと、人々の豊かな生活が生じるのは資本主義というイデオロギーやシステムことではなく、そのシステムを使っている一人ひとりの想いと行動が重要であると提唱しているように思います。

 一人ひとりが道理を持って行動すれば、旧来の資本主義でも大きな問題がないでしょう。斎藤幸平氏が提唱するコミュニズムも一人ひとりが道理を持って行動することが前提になっているように思います。したがって、新しい資本主義の実現も、一人ひとりの道理が不可欠であるということなのでしょう。(渋沢健)

◆しぶさわ・けん シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。近著は「SDGs投資」(朝日新聞出版)

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