「名誉毀損罪に当たるかという点ですが、同罪については対象が特定されている必要があります。今回のビラには店の特定がない以上、名誉毀損には該当しません」

 貼られた場所から、どの店か推測できそうな場合でも、この「対象の特定」の問題により名誉毀損には当たらないと考えられるという。とすると、仮に店側が「うちを指している」と感じたとしても耐えるしかないという結論になりそうだ。

■名誉毀損罪に該当する可能性

 だが、解釈が変わる場合もある。

 鈴木弁護士は、「例えば、ある飲食店の入り口や壁など店そのものに貼られていた場合は、対象が特定されていると評価できます」として、こう続ける。

 「名誉毀損罪は、『社会的評価を害するおそれのある状態』を発生させれば成立します。実際に社会的評価が下がったかどうか、内容が真実か否かは問いません。今回のビラは、あくまで推測ですが、政府の施策に対する批判とあわせ、飲食店だけが優遇され、望外の利益を得ているとの印象づけをしているようにもうかがえます。そうなると、これを見た一般の人が『ビラを貼られた飲食店が、あたかも税金から不当に利益を得ている』と感じる可能性は否定できません。その結果、『社会的評価を害するおそれのある状態』を発生させたと言えるので、名誉毀損罪に該当する可能性はあると考えます」

 協力金のあり方を巡っては飲食業界だけ優遇しているという批判や、同じ飲食店同士でも経営規模を反映しない点について疑問の声は強かった。取材した店の中には、コロナ禍以前の通常営業時の売り上げより、協力金が大幅に上回ったという店も確かにあった。「もらったお金で車を買い換えた同業者がいた」(江東区の居酒屋店主)というように、不公平感が生じたのは事実だろう。

■業界全体の再起に水を差す行為

 鈴木弁護士によると、例えば「税金を搾取」など店の信用を損ねるような表現や、あたかも違法行為をしたかのような書き方をした場合は、名誉毀損に問われる可能性が高くなるという。

「協力金を含め、政府による救済措置の業種間格差について、批判的な意見が生まれることは理解できます。しかし、多くの飲食店が損失に苦しんでいるのは事実ですので、飲食店全体を一緒くたにして、業界全体の再起に水を差すような今回のビラ貼りは、方法として賛同できません。批判的な意見を表明する場合には特に、その内容や方法について受け手の感情や影響に配慮した上で、慎重に吟味して頂きたいと思います」

 不満だからと、度が過ぎた表現をすれば法的責任を問われることにもなりかねない。なにより、こうした社会の分断を生むような行為を望まない声もたくさんある。

 (AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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