エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
この記事の写真をすべて見る

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

*  *  *

「一同、心を込めてがんばってございます」

「こちら、塩ラーメンになってございます」

 いつからか、耳にするようになった言い回しです。

 二つの例を読んでも特に違和感はないという人もいるでしょう。言葉の専門家の見解は分かりませんが、私は毎度おやっと思ってしまいます。

 冒頭の例は「がんばっている」を丁寧に謙(へりくだ)って言おうとした表現ですね。では、「がんばっている」と「がんばってある」では、どちらが自然でしょうか。これは多くの人が「いる」の方が正しいと答えるはず。「いる」を丁寧に言うと「います」。それに謙りの意味をつけると「おります」ですから、「がんばっております」ですね。

「ございます」は「ある」や「です」を丁寧に言った形ですから「がんばってございます」だと「がんばってある」「がんばってです」と言っていることになってしまいます。丁寧に話そうという気持ちは伝わるのですが、語法としては不自然な感が否めません。

 では、塩ラーメンの例はどうでしょう。これは今やすっかり定着した「になっております」からの進化形と言えそうです。本来は、塩ラーメンだ→塩ラーメンです→塩ラーメンでございます、と丁寧度を増していきます。ところが「塩ラーメンです」を丁寧に言おうとして「です」という言い切りを避け「塩ラーメンになっています」という婉曲な言い方をする人が増えました。それをさらに丁寧に言おうとして「なってございます」に至ったのでしょう。「なっています」を丁寧にするなら、こちらも「なっております」が自然です。

 ややこしいですね。2例のような言い方はビジネスや接客の現場で定型文として広がりつつあるのかな。でも念のため「です=でございます」「います=おります」と覚えておくと安心かもしれません。

「なってございます」。聞くことがあるけれど違和感のある言い回し、ありませんか?(写真:gettyimages)
「なってございます」。聞くことがあるけれど違和感のある言い回し、ありませんか?(写真:gettyimages)

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2022年11月14日号