体操女子コーチ 村上茉愛
体操女子コーチ 村上茉愛

 体操女子コーチの村上茉愛さんがAEARAに登場。10月に行われた体操世界選手権で引退を表明し、今後は指導者として体操に関わり続ける道を選んだという彼女が語った。AERA 2021年11月29日号から。

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「私は今日で引退します! 最後の最後に金メダルで、感動を少しでも届けられたんじゃないかと思います」

 10月24日、北九州市で開かれた体操の世界選手権の閉会式後、観客を前に笑顔でこう宣言した。女子種目別のゆかで金メダル、平均台でも銅メダルを獲得。有終の美を飾り、20年以上にわたる競技生活に別れを告げた際には「今はちょっと休みたい」と漏らしていた。

 そんな彼女がまずやったのが、ラーメンをすすり、ハンバーガーとフライドポテトをほおばることだった。体重管理やけがとの闘いから解放された瞬間だった。

「翌朝起きて、鏡を見てびっくりしました。顔がパンパンだったんですよ。むくんだことなんか今までなかったので。明日の練習のことを考えなくていい生活、幸せですよ。よく眠れるようになりました」

AERA 2021年11月22日売り表紙に村上茉愛さんが登場
AERA 2021年11月22日売り表紙に村上茉愛さんが登場

 満面の笑みで言ったあと、「でも」と続けた。「1週間も休んだら体育館が恋しくなっちゃって。あぁ、私には体操しかないんだなって思いました」

 小学校のころ、テレビドラマやCMに出演した。スポットライトを浴びるのも嫌いではない。ロンドン五輪代表の田中理恵らの活躍を見ながら、「タイプ的に自分もこっちかな」。引退後は芸能界に進むことを考えた時期もあった。

 ところが、キャリアの終盤になるにつれ、「自分でも意外」という感情が芽生えた。

「日本の女子を強くしたい、自分と同じようにメダルをとったときの喜びを味わってほしいって思うようになったんです。体操から離れるのは、60、70歳になってからでいい」

 この日の予定は「撮影と取材だけです」と言っていた。でも、そのあと向かった先は母校・日体大の体育館だった。バッグにはちゃんとジャージーもしのばせて──。引退から1週間あまり。指導者としての道を、もう走り始めていた。

(朝日新聞記者・金島淑華)

AERA 2021年11月29日号