男性も自分事と感じて
メンバーの経験や視点の違いも15作品に表れている。海外留学経験のある嶋田萌さん(20)は「少女は自転車にのって」など海外の女性の現状に目を向けた。田崎優歌さん(21)は「人によってギャップの受け取り方が違った」という。
「私は『5時から7時までのクレオ』にジェンダー・ギャップの視点があるとは感じてこなかった。映画祭は、この作品をそう感じる人がいるのだ、ということを考えるきっかけにもなるのではないでしょうか」
「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の監督で映画学科特任教授の片渕須直さん(61)は、2000年に手がけた「アリーテ姫」が自身のジェンダー・ギャップへの意識を高めるきっかけになったと話す。
「女性の問題を男性である自分が描くことで、問題の本質が明らかになるのではと挑戦した」と振り返る。以降、女性作家による原作の映画化を、自身の解釈を交えて手がけてきた。
「『この世界の~』では、主人公のすずさんが嫁ぎ先で『自分の新しい名字をとっさに思い出せない』というシーンを、原作より強調して描きました。結婚によって、自分という存在が薄まっていく感覚を表現したかったんです」
一方で、生きにくさの実感は女性に限ったことではない、と片渕さんは指摘する。「人間がいかに自己を圧迫されるか、それはどういうときかを考えると、女性、男性に関係なく、その瞬間はある。女性のことを描いた映画を見ながら男性も『これ、自分のことだよな』と感じられることが大事だし、そうした映画の見方が増えてほしい」
しかし日本の現状は厳しい。ジェンダー・ギャップ指数は世界156カ国中120位。男女格差は依然として埋まらない。
古賀さんによると、映画学科の現在の学生数は635人。3分の2にあたる395人が女性だが、映画業界の門戸は決して広くない。佐々木さんもぼやく。
「撮影・録音コースの学生はほぼ女子ですが、実際にプロの撮影現場にいくと女性は一人もいない。ここで学んでいる女の子たちはどこへ消えていくのだろう?と思ってしまう」