加藤雅也 [撮影/小黒冴夏、ヘアメイク/結城春香]
加藤雅也 [撮影/小黒冴夏、ヘアメイク/結城春香]

 子供の頃から、映画が大好きだった。

【映画「軍艦少年」の場面写真はこちら】

「遠い親戚が、地元の奈良で映画館をやっていて、そこの子供が幼稚園の同級生だったこともあって、夏休みになると、『ゴジラ』なんかの怪獣ものを見るのが楽しみでした。少し大きくなると、山口百恵さんと三浦友和さんが主演した文芸作品や、松田優作さんのアクションもの、菅原文太さんの『トラック野郎』……。そこから、角川映画にも夢中になった。外国映画も、スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975年)が公開されるまでは、どちらかというとフランス映画のほうが人気だったように記憶しています」

 63年生まれの加藤雅也さんが、大学進学のために横浜に出てきてしばらくすると、世の中にはビデオデッキが普及し始めた。

「それからは、貪るようにいろんな映画を見ました。子供の頃は、いくら映画が好きでもなんでも見せてもらえるわけじゃなくて、自分でお小遣いをやりくりして、『今回はこれを見よう』と決めた。そのときに、だいたいお小遣いが足りなくて泣く泣く諦めた映画があったんです。ビデオが普及してからは、その、子供の頃に見逃した映画を片っぱしから、本当に、貪るように見ました」

 大好きだった世界に足を踏み入れるようになって30年余り。20代の頃から今の今まで、「いい映画に出たい。いい役に出会いたい」と、その二つだけを願って生きてきた。今月10日に公開される映画「軍艦少年」では、最愛の妻を失って失意の中にいる主人公の父・玄海を演じた。長崎・軍艦島の見える街で暮らす父と息子の、喪失と再生の物語だ。

「今まで自分がやったことがないような役のオファーが来たときには、猛烈に『やりたい!』と思いますね」と加藤さんは話すが、今回の役はまさに、一般人の多くが加藤さんに抱いている知的でカッコよくて渋いイメージを覆すようなキャラクターである。

「実は、知られていないだけで、案外こういうダメな父親の役もやっているんですが、そういう作品というのは大体が公開規模も小さかったりして、あまり大勢の人に知られないものなんです。だからどうしても、何か新しいことにチャレンジしたいとなったら、インディペンデントの作品や短編になってしまう。そういう仕事をやる役者とやらない役者がいると思うんですが、僕の場合は、常にチャレンジできる役を選びたいほうです」

 あまり固定観念を持たずに、「面白い」と思った作品には出るようにしているという。「チャレンジする気持ちを忘れたくはないのですが、一方で、『〇〇と言ったらこの人だよね』と誰もが思うような定番の役があるのも、役者としては素晴らしいこと。ただ、僕自身の目標として、『この人に“こんな役をやらせたい”と言われるような役者になること』というのがあったので。年齢的にも、いろんな役をできる準備が今やっと整っているということかもしれない」

次のページ