この日、SNSを通じて抗議集会が呼びかけられていた。警察官らはこの女性に、「あと10分後にここに戻る。その時にまだ同じ場所にいれば逮捕する」と告げ、立ち去った。その女性はまもなく姿を消した。
警察官らは、女性が抗議デモに参加する目的でその場にいたとみて、排除を試みたのだろう。丸腰の若い女性を、銃や警棒を持った屈強な男たちが取り囲み、威圧し、黙らせる。そう受け止められてもおかしくない光景は、イランの今を映す。
広場はバザール(市場)を抱え、新鮮な野菜や果物、特産のピスタチオ、衣類や茶器を扱う店が軒を連ねる。いつもは、店主の威勢のいい声が飛び交い、値段を交渉する買い物客とのやり取りが見られる。だが、そうした日常は消えた。必要な買い物だけを済ませ、皆、そそくさと立ち去る。
不安も強まる一方だ。テヘランの大学院に通う25歳の女性は、「私も変革を求めているが、静かな暮らしも望む」と話す。
各地の大学のキャンパスでは抗議集会が相次ぐ。名門シャリフ工科大学では10月2日、治安部隊と教員・学生が激しく対峙し、大混乱した。
在テヘランの外交筋は、「体制側が妥協しそうになく、緊迫はしばらく続くだろう」と語った。(朝日新聞テヘラン支局長・飯島健太)
※AERA 2022年10月31日号より抜粋