ヒジャブと呼ばれるスカーフのつけ方を巡り、イランで若い女性の死亡から1カ月が過ぎた今でも、抗議活動が収まる気配はない。イラン国内では体制と市民との対立が明らかになり、緊張が続いている。AERA 2022年10月31日号から。
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現体制は反米を貫く。
欧米諸国は今回、平和的な抗議活動を弾圧していると批判し、関係は冷えるばかりだ。
制裁で経済はむしばまれ、イラン統計局によると、9月時点の失業率は全体で8.9%。なかでも大卒の失業率は男性が8.8%だが、女性が23.2%にものぼる。インフレ率も50%で、肉や卵はもはやぜいたく品だ。
一方で、これまでのところ、体制側の譲歩は想像しにくい。イスラムの価値観に基づく社会づくりこそが基盤で、正統性を保ってきた。その象徴であるヒジャブの着用をめぐり、少しでも弱みを見せれば、体制の崩壊につながる危機感がある。
最高指導者ハメネイ師の一言は決定的だった。10月3日、デモ開始から2週間を過ぎて初めて、口を開いた。
「軍事力の強化は、国家の基盤を強固にする」「警察は犯罪者と対峙し、公共の安全を保障する義務がある」
在テヘランの外交筋は、「抗議や非難の声に妥協しない、という立場を明確にした」と語った。
体制側は、今回の抗議集会を「暴動」と決めつけ、背後に外国勢力、つまり米国とイスラエルによる扇動があると主張する。「暴徒」に対しては徹底的に対抗すると言っている。
ノルウェー拠点の人権団体イラン・ヒューマン・ライツは10月17日、一連のデモで18歳未満の子ども27人を含む少なくとも215人の死亡を確認したと発表した。
対立が明らかになったいま、締め付けは容赦ない。
10月12日正午、テヘラン北部のタジュリシュ広場にあるバス停で、20歳ぐらいの女性が1人でベンチに腰掛けていた。そこへ、およそ20人の男たちがぞろぞろと集まり出し、その女性を取り囲んだ。武装した警察と治安部隊だった。