東京・新宿の沖縄料理店。人事コンサル大手に勤務していた一杉元嗣さん(32)は、人事コンサルを経て、いまは身内が経営する企業の人事責任者を務める大学時代の友人に近況を尋ねた。友人はこう言った。

「コンサルでの経験は本当に貴重だった。でも、今のようなヒリヒリした感じは味わえなかったかも」

 友人が語る充実感は、一杉さんが求めていた「居場所」そのものだった。

「『うわー、それやりたい』って思いました」

 翌日、一杉さんはかつて勤務していた「ベネッセコーポレーション」の村山祐紀子・人財開発部長(44)とカフェで向き合った。コンサルで培った経験やスキルを説明し、村山さんにこう直談判した。

「人材や組織開発にかかわる部署で戻れるポジションってありますか?」

 村山さんは、在職時から一杉さんのキャリア相談を受けていた。しかし、営業職のエースだった一杉さんを人事部門に引き抜くのは難しく、キャリア形成を急ぐ一杉さんを社に引き留められなかった経緯があった。村山さんはこう振り返る。

「一杉さんには、いつか戻ってほしい、と思っていたので、人事担当者としては正直、『よし、来た』という感じでした」

 一杉さんは大学卒業後、通信大手に就職。ベネッセには28歳から3年間勤務。その後、昨年8月に人事コンサル大手に転職し、今年9月にベネッセに戻った「出戻り社員」だ。

■重要な退職時の対応

 とはいえ、退職時には「出戻り」は念頭になかった。ベネッセに再入社した理由の一つが退職時のフォローだという。

「退職の際、村山さんや同僚の方たちが『これまでよく頑張ってくれたね』『いつでも戻ってきてね』『どんな形でもいいから関わってね』と何度も言って送り出してくれたことがずっと頭に残っていました。これはすごく大きかった」(一杉さん)

 一杉さんに限らず、ベネッセには離職の際、「いつでも戻って」と呼び掛ける社内風土があるという。その理由について村山さんはこう話す。

「ベネッセの企業理念に共感し、たとえ1年でも一緒に働いた社員はたき火を前に語り合った同志のようなものと捉えています。たき火でご飯を炊く人もいれば、しばらく別の場所に行って、新しい木をくべる人もいる。働き方が多様化するなか、社外も含む『チーム・ベネッセ』の輪を広げていくことに意味があると考えています。今は副業を認める会社も多いので元社員に仕事をお願いするケースも増えています」

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