岸田文雄首相
岸田文雄首相

 昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では「可能な限り原発依存度を低減する」と明記していたが、なし崩し的に方針転換を図ろうとしているわけだ。

 岸田氏が目玉としたいのは「次世代革新炉」の開発・建設だろう。経産省の原子力小委員会の下に置かれた革新炉ワーキンググループ(WG)では学者のほか、日本原子力研究開発機構、経団連、みずほ銀行の職員らが委員として参加している。

 革新炉の候補になっているのは、革新軽水炉、小型軽水炉(SMR)、高温ガス炉、高速炉、核融合炉の5種類だ。有力なのは、最も早い30年代に商業運転を始められるという革新軽水炉だ。WG唯一の脱原発派の委員、NPО法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長が解説する。

「大型の軽水炉が120万kWに対し、SMRは数万~30万kW(キロワット)程度です。最近出た米国の論文によれば、原子炉の種類によって出力当たりの核のゴミが一般的な原発より2~30倍も増える可能性があると指摘しています。高温ガス炉は特殊な核燃料を使いますが、大量に生産できる工場は存在しません。また、使用済み核燃料の取り扱いも問題になります」

■国民に信問わず突然の政策変更

 高速炉は使用済み核燃料を使って高効率に発電するという触れ込みだが、日本では高速増殖炉「もんじゅ」が冷却材のナトリウム漏洩事故など相次ぐトラブルで廃炉に追い込まれている。核融合炉は太陽と似た核融合反応を起こし、エネルギー源として利用する。技術的な課題が多く、まだ実験炉もできていない段階だ。では、現時点で最も評価が高いとされる革新軽水炉の特徴は何か。

「次世代と言いながら、実は現行世代と同じ原子炉(加圧水型炉)が使われるのです」

 驚くべきことに、松久保氏はそう指摘する。

「私は原子力小委員会で『革新軽水炉の革新性とは一体何ですか』と、事務局の担当者に尋ねました。すると、プルームホールド・タンクといって、事故の時に放射性希ガスが放出しないようためておくタンクを付ける、と答えたのです。そうした機能をいくつか付ければ“革新”だというわけです。先進的な技術で安全性が確立された原子炉のように、国民が誤解してしまう恐れがあります」

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