
橋本愛さんは、俳優としてのキャリアをスタートさせて4年ほど経った、10代後半の頃、「自分は偽物なんだ」という自覚が強くあったという。
「スケジュール的にも、いちばん詰まっていた時期で、1年の間にたくさんの作品に参加させていただいていました。合間を縫うように、いろいろな役を演じなければならなかったので、体力的にというより、精神的にものすごく大変でした。ちゃんと、役に向かい合えている自信がなかったから、その偽物の自分が嫌いだったんです」
そこから抜け出して本物になるにはどうしたらいいか。その手段がわからなかった。
「誰にも教えてもらえずに、真っ暗な中を手探りで進んでいる感じで、だから当時は、役へのアプローチを、ことごとく失敗していた印象があります。ただ、当時から自分や作品を褒めてくださる方もたくさんいたので、“失敗している感覚”と、“評価されている自分”とのギャップを感じていました。当時、唯一私が自分自身を認められることがあったとすれば、それは、“本物が何か”ということを見極める力があったことだと思うんです。自分は偽物だけれど、自分の好きな人やものが、本物だという自信だけはあった。“本質とは何か”ということも、よく考えていました」
そこから、自分の憧れる人や、「素敵だな」と思う人に、どうすれば近づけるのかを自分なりに分析するようになった。今は、“本物”に近づいていく過程を楽しんでいるフェーズにいるらしい。
「あのままだと、破綻していたかもしれないですし、仕事を辞めていた可能性だって十分にあります。でも、この仕事のいちばんの魅力は、出会いの多さだと思うんです。折に触れて、私が『この人は本物だ』と思える方たちと出会って、人として大事なことを教えていただいたり、この仕事を続けていく上での信頼できるパートナーの方に出会えたりとか、出会いを重ねて、やっと人になれたみたいな感じはすごくありました。迷っているときや不安なとき、周りからヒントをいただくことがすごく多くて、辞める辞めないみたいなことを考えたときも、『ここで、こういう人に出会って、こういう言葉をいただけたのは、この先もやれってことなんだろうなぁ』と解釈をすることで、生きがいみたいなものを見つけてきた感じです」