とはいえ、山奥にこもり、自給自足をしろと言っているわけではない。日曜大工や家庭菜園の経験すらなく、クルマの免許がなくても普通の人が普通に生きながらえる、「マイルド・サバイバー」になれる策を教えてくれる。

 移り住むならどの地域がよいか、農村か都市郊外か、仕事はどうするかといった誰もがまず悩む問題から、インターネット環境や日常の移動手段など生活のノウハウまで。移住者ならではの視点で、普通の人が生活を変えるのに必要な最大公約数を示す。

 もちろん、「住む場所や仕事をすぐには変えられない」との声もあるだろう。重要なのは住居をすぐに移すことではなく、情報を集め、理解し、決断する力だと著者は指摘する。

 大きな危機が目の前に迫ってきた場合、すぐに手を打たなければ手遅れになる。ましてや打つ手を考えていなかったら生存に関わる。

「まさかそんなことが起きるわけはない」という根拠なき楽観を捨て、当初の計画がうまくいかない場合に備え「プランB」(代替案)を考える。現状がうまくいかなければ、プランBを試す。その変化自体を楽しむ。日本を変えようと思わず、自分が生き残るには何が必要かを考える。読んでいるうちに、そうした思考や姿勢を育めるのが、本書の最大の効用だろう。

 ただし、気を付けなければいけない。著者は自らの経験をもとにサバイバル術を語っているが、いかに生き残るかの正解はない。人は置かれている立場も抱えているものも違う。著者の教えに則れば、本書の中身を無批判にそのまま真似るのもまた危険なのだ。

週刊朝日  2022年9月23・30日合併号