春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「青春は密」。

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 今年の夏の甲子園、優勝校は仙台育英。OBのたこ八郎さんも泉下でお喜びのことだろう。「先輩はたこ」、そして「青春は密」。これは須江監督の決勝後のインタビューでの言葉(後者)。監督、39歳だって。高校野球の選手ってみんな年上のお兄さんかと思っていたけど、選手どころか監督まで年下になってしまった(ちなみにたこさんは享年44。今の私と同い年!)。

 私の高校時代の『青春は密』だったろうか? 高1で入部したラグビー部。あんなにごちゃごちゃした競技だとは思わなんだ。「密」はキツかった。1年で辞めたある日、浅草の街をふらついていた。当時の浅草は今のにぎわいに比べはるかに「疎」だった。夜はホームレスのおじさんと野良犬しか居らず(オーバー)、ふらっと入った寄席はこれまた「疎」な客席。なのに出演者は「密」。こんな「疎」(と思われる)な売り上げをあんなに大勢の「密」な人数で分けてやっていけるのかと、他人事ながら心配が「密」になったが、深夜に「疎」な東武鉄道で帰宅し、落語って面白いかも……という思いに駆られる。

 翌日、先生に鍵を借り、十数年ぶりに部員の途絶えていた落研部室の封印を「密」かに解く。「密」なゴミやガラクタを片付け、無理矢理引き込んだT君と二人だけの「疎」な落語研究会が始動した。活動内容としては、放課後にコンビニでスナック菓子やカップラーメンを買ってきてそれを貪りながらダベる。時々、私が落語を覚えてきて、それをT君が寝っ転がりながら聴く……というもの。さながら「ブルペンだけの野球部」。女房役のTは口の周りをのり塩ポテチの食べカスで「密」にしながら、落語の感想は「あー、まー、いーんじゃない?」と「疎」極まり無い。しばらくすると我々の落研部室に、ユルさを求めて様々なコミュニティから「疎」外されたハンパ者が、秘「密」裏に集うようになった。

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