引っ張って使えるタイプのスーパーのカゴは、重くなくて便利(写真/筆者提供)
引っ張って使えるタイプのスーパーのカゴは、重くなくて便利(写真/筆者提供)
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 ドキュメンタリー映画監督の海南(かな)友子さんが10歳の息子と年上の夫を連れ、今年1月からニューヨークで留学生活を送っている。日本との違いに戸惑いながら、50歳になっても挑戦し続ける日々を海南さんが報告する。

【写真】子どもが学校に行っている間に、夫とブルックリンへ

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 留学に息子を連れていくことは決めていた。だけど、夫の仕事については課題だった。初めは渡米に難色を示したが、長い話し合いの末、仕事を休止して同行してくれることになった。

「君の挑戦に協力して、子供のことを俺がやる」

 と言われたときは本当にうれしかった。そして夫は突然、家族の海外駐在に同行する駐在妻ならぬ「駐在夫」となった。

 渡米する前は、

「私も家事はやるよ!」

 と言っていたが、現実はシビアでとてもできなかった。一日中、コロンビア大学の授業を受け、図書館で文献を調べ、ときには誰かのインタビューに行く。フルブライトから研究資金をもらっているので、仕事と同じ責任感でやらねばならない。疲れすぎてくたくただ。みかねた夫が、いまでは食事、掃除、洗濯、子どもの送迎などの家事を担ってくれている。

 人生で初めて家事をメインの仕事として担当する夫。英語が得意ではないため、買い物ひとつでも大変だ。初めてスーパーに行った日、レジの女性から怒鳴られて帰ってきた。

「早く、ベルトコンベヤーに乗せろ! 何やっている!」

 と彼には聞こえたらしい。本当にそう言ったかはわからないけど……。日本ではレジに買い物カゴを置いて会計するが、アメリカのレジはベルトコンベヤーに自分で品物を置かねばならない。意外に難しくて、前の人の品物と混ざらないよう、タイミングを見はからわねばならない。夫はカゴごと置いて怒られたのだ。50歳を過ぎて、スーパーのレジで怒られるという、ある意味貴重な経験となった。

 夫はもともと洗濯や掃除は得意。でも、料理はあまりしない。

「カレーぐらいはできるさ」

 と言っていたが、初めてカレーを一人で作ろうとしたとき、肉が解凍できずに悪戦苦闘。電子レンジで解凍する方法がわからなかったらしい。包丁の刃はボロボロになり、肉に金属が紛れてしまった。

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