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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「NHK紅白歌合戦」について。

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 NHKホールの改修工事が終わり、2年ぶりに紅白が聖地へと還ってきました。しかも同ホールから有観客での紅白は、コロナ禍前の2019年以来だったとか。かくして昨年も無事「NHK紅白歌合戦」が開催・放送されたわけですが、始まる前から、そして終わった後も、休む間もなくあれこれと書き立てる芸能記事、それに群がるネット民たち。朝から晩まで「紅白なんて観ない!」「税金の無駄!」などと書き込んでいる連中にとって、「紅白(にケチをつけること)」は、彼らの「生きがい」なのだと改めて実感した次第です。たとえ負の感情であっても、あれほどの熱量が存在すれば、紅白はまだまだ安泰でしょう。

 昨年はまず、審査員席が昔のように客席側に戻っていたのが、長年の紅白ファンとしては嬉しかった。出場歌手に関しては、やはり知らない人やグループが年々増えてきている印象でしたが、これはひとえに自分が歳をとったせい以外の何ものでもありません。

 ネット民たちがまず(自分の年齢や感性を棚に上げて)ケチをつけるのもそこですが、それも今に始まったわけではなく、昭和の時代から毎年のように「演歌が多過ぎる!」だの「知らない外人を出すな!」だのと散々言われ続けてきたこと。裏を返せば、それぐらい紅白は「マンネリ」と「冒険」と「迷走」を行ったり来たりしながら、73回もの歴史を積み重ねてきたのです。故にケチや苦情もずっと似たようなものばかり。毎年巻き起こる「紅白不要論」に斬新なものなどひとつもありません。

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