どうやらビール券はビール以外にも使えるらしい(使えない店、もしくは必ず1本はビールの購入を求める店もある)。弁当も、菓子も、日用雑貨もビール券で買えるのだが、ビール券をくれた方は私のビール好きを見込んでプレゼントしてくれたのだ。そのビール券でガリガリ君やジェルボールは買えないよ。たとえ買ったとしてもお釣りが出ないのはやはり悔しい。
手持ちのビール券を見ると「有効期限は2028年まで」とある。長っ!? そう、ビール券の有効期限は長いのだ。なかには「期限無し」という大盤振る舞いも。ここだ。この長過ぎる猶予期間が私に「まだまだ大丈夫」と思わせる。このビール券さえあれば、どんなに貧乏してもビールは飲める。この甘えが私にビール券の使用を躊躇させる。
思い切ってビール券を使ってみよう。「あ、ちょっとお待ちください」「えーと、使えるみたいです」「お釣りは出ません」。想定内の店員のレスポンスに苛つきつつ、無事購入し帰宅。湯上がりに一本。
結論。もらえなかったお釣りを引きずって、「あの差額で何が買えたか」を夢想しながら飲むビールの味は、いつもより30%落ちる……以上、あくまで個人の感想ですが、ビールは飲みたい時に手銭で飲むほうが美味い。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年9月9日号