落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ビール」。
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「ビールが飲みたい」。一日の3分の1はそう思って生きている。飲みたい時に缶ビールくらいは手銭で買える人間でいたいものだ。たしかそんなことを雁屋哲が『美味しんぼ』の11巻「トンカツ慕情」で言っていた。
私の財布はいつもパンパンだ。中身は残念ながら紙幣ではなく、大量のビール券。常に10枚以上、全て頂き物。お客様からの祝儀袋を手にした感触で「10万!?」と思ったら、中身は「ビール券10枚」なんてことがよくある。一瞬舌打ちするが、決して嬉しくないわけじゃない。すぐに財布に入れたが、使わずに数年は経っている年季の入ったビール券。これを使うタイミングがわからない。ビールは好きだが、ビール券は苦手。
まずコンビニの店員に「ビール券、使えますか?」と聞くのがうっとうしい。大概使えるんだけれども。出してから「うち、券、使えないんです」と言われた時のストレスを省くために、使用可否は事前に聞いておきたい。その時、相手が新米店員で「あ、ちょっとお待ちください!」と先輩店員に助けを求めたらどうしよう。そのワンクッションがもう耐えられない。そんなことならICカードで「ピッ」と済ませたい。こっちはビールを早く飲みたいんだ。
またビール券の金額設定が使いにくい。2種類。一枚で、大瓶633ml×2本(770円)、もしくは缶350ml×2本(488円)分。この金額内なら小瓶でも500ml缶でも使用出来る。私はビールは500ml缶でやりたいほうだ。いろんな組み合わせを考えるがどうしても端数が出てしまう。お釣りが出ない店もある。しみったれだが、もらったビール券でもお釣りが出ないのは嫌だ。そんなことにモヤモヤするくらいなら現金だ。オレに早くビールを飲ませてくれ。