カテリーナさんと母のマリヤさん
カテリーナさんと母のマリヤさん

カ:ウクライナ語を話せずにロシア語を話すウクライナ人もいます。でも戦争が起きてからは、ロシア語を話す人はロシアの味方というイメージになってしまいました。ウクライナ語での会話の中で、ロシア語の単語が一つくらい入ることはよくあったんですが、戦争が起きてからはまったくなくなって。きれいなウクライナ語でしゃべる方が増えたようです。

マ:怖い夢のような感じです。昔見た戦争映画と同じようなことが、実際に自分の家の周りで起きるようになったんです。子どもたちまで殺すなんて、人間のやることではない。人間の姿をした悪魔だ。まるで映画の台本と同じように実際のロシア兵が動く。今回もひとりの男が作った台本どおりに、兵隊は動いています。原発事故も怖かったけど、戦争のほうがずっと怖い。人が人を殺すのですから。恐怖から、家を出ることを決めました。

──マリヤさんは10年前に亡くなった夫との間に、4人の娘に恵まれた。2人は日本に住み、2人と孫たちがウクライナに住んでいる。

マ:日本という安全な国に住んでいても、娘と孫は大丈夫かと心配で、全然落ち着かない生活を送っています。インターネットが繋(つな)がっているときには連絡を取り合っていますけど、サイレンが鳴ったらシェルターに逃げる生活のようです。

 日本に呼びたい気持ちはありますが、上の娘は今年50歳になりますし、下も46歳。言葉もできないので、人生をゼロからやり直すのはかなり厳しい。それでも逃げなきゃいけないという状況には、なってほしくない。

 もうひとつ心配なのは2人の甥です。兵士として戦場に出ています。兵士ですから、敵を殺さないといけません。複雑な思いです。皆、誰かの息子であり、誰かの父親かもしれません。でも戦争というものは、家族を守るために、自分の国を守るために、敵を殺さないといけないのです。

──こう話す母の言葉を通訳するカテリーナさんの目には、うっすらと涙が浮かんだ。

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