AERA 2022年8月15ー22日合併号より
AERA 2022年8月15ー22日合併号より

 09年以降、75歳以上は免許更新時に認知機能検査を受けることが義務付けられているが、これはあくまで認知機能の検査であって、運転能力自体を判定するものではない。運転に必要な身体機能が低下して、視野が狭くなる、繊細なペダル操作ができなくなる、といった事態が起きていないか、確認するには助手席に乗るのが一番だ。

「判断のポイントは、乗り心地がいいかどうかです」と志堂寺さん。具体的なチェックポイントとして挙げている22項目も参考にしてほしい。「前はこんなことはなかったのにな」という変化が感じられたら要注意だ。

 いくつ当てはまれば返納を勧める、という基準はないが、総合的に判断して「返納するように説得しよう」と決めた場合でも、急に切り出すのは得策ではない。

 説得を成功させるために最も大切なのは、「準備」だと志堂寺さんはいう。車を手放した後の生活に対する準備という意味でもある。期間を限定して、車のない生活をシミュレーションしてみるのもいい。

「親御さんは、車を手放したら買い物や通院はどうするんだ、と不安を感じているはずです。それに対して例えば買い物はネット通販を利用できるよとか、家族としてこういう手伝いができるよ、という提案が必要。手放した後の生活ビジョンが描けなければ、説得はうまくいかないでしょう」

 鉄則は、親がどう感じているのか、想像しながらアプローチすることだという。

 家族で旅行に出かけたり、子どもたちの送り迎えをしたり。親の運転免許には、家族の歴史と思い出がたくさん詰まっている。たまにしか帰ってこない子どもから「危なっかしいからもう運転はやめて!」と頭ごなしに言われたらどう感じるか。

 志堂寺さんは「説得は理詰めではなく、気持ちが大切」と強調する。子どもから“年寄り扱い”されたと感じれば、さらなる心理的反発を招く。車にまつわる親の思いや誇りを理解し、その上で事故を心配している気持ちや生活のサポートの申し出を真摯(しんし)に伝えたい。

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