フィギュアスケートの羽生結弦が今年2月の北京冬季五輪で五輪3連覇を目指す。昨年12月の全日本選手権で挑んだ前人未到の大技・4回転半ジャンプの成功を誓う。AERA 2022年1月17日号の記事を紹介する。
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羽生結弦の一挙手一投足に視線が注がれる。この数年は当たり前になったことだが、昨年12月の全日本選手権はとりわけ注目度が高かった。
今季の初戦であることに加え、右足首の負傷の状態、前人未到のクワッドアクセル(4回転半)への挑戦、そして4年間、明言してこなかった今年2月の北京五輪への思い──。数々の疑問があった。王者は、演技で、言葉で、一つずつ答えていった。
開幕前日の22日は公式練習を欠席し、開会式に参加した。引き締まった表情に覚悟がうかがえた。
最初に見る者を驚かせたのは23日の公式練習だ。羽生は最後の5分間でいまだ成功例のないクワッドアクセルに挑んだ。
ゆったりとした助走から、体を締めて高く跳ぶ。両足着氷になったり、回転不足になったりしながらも、3度着氷した。
昨年4月以来の挑戦
羽生が公の場で、この技に挑戦したのは、昨年4月の世界国別対抗戦のエキシビションに向けた練習以来だった。この時はスピードをつけた助走から力を振り絞って跳び、強い衝撃音とともに氷にたたきつけられていた。比較すれば、今回は明らかに成功に近づいていた。
練習後に取材に応じた羽生は、右足首の不安はなくなったことを明かし、この日の練習を解説した。
「自分の中で軸作りが一番大事だと思っていたので回転はそんなにかけていない。軸をちゃんと早く作れれば、回転も速く回れる。その意味で前よりは(スピードを)落とした」
会場で見た羽生の少年時代のコーチ、都築(つづき)章一郎さんは、軸を作ることを優先する羽生のアプローチは正しいと言う。
「軸がぶれないでコマと同じようにまっすぐ立てれば、横ぶれしない。回る軸が点に近くなれば、速く回れる」
さらに羽生はこの取材で、こう話した。
「(クワッドアクセルの)延長線上に北京はあるかもしれないと腹をくくってここまできた」
五輪を目指すという意味かと問われると、
「はい」
と答えた。連覇した2018年の平昌五輪以降、北京五輪への意思を明確にしたのは初めてだった。
北京五輪の男子の出場枠は3。全日本で優勝すれば、自動的に代表に決まる状況だった。ギリギリのタイミングまで五輪への思いを封印したのは、クワッドアクセルの成功にすべてを注いでいたからだった。