
そこまで言って、周りのスタッフに向けて、「あ、ここは大笑いするところですよ!」とおどけてみせた。
20代後半で劇団を立ち上げ、30代に突入してからは映像の仕事で声がかかることも増えた。とはいえ最初の頃は、会社員Aや刑事Bなど、名前のない役がほとんどだった。
「そういう名もなきABみたいな役を、多分ですけど、日本で一番やっていると思います。でも、どんな人間にもいろんな面があるように、どんな役にも、可能性は無限にあると思う。何もない穏やかな日常の中でボソボソしゃべる芝居もできなきゃいけないし、葛藤を全部さらけ出さなきゃいけないときもある。内側に抱えているものを外に出さないで伝えるのも役者の仕事。だから、今回のようなシリアスな役も好物だし、コメディーの役も好物です」
佐藤さんの原点には、シンプルに「お芝居がしたい」という思いがある。どんな役でもいい。お芝居がたくさんしたい。いろんな役がしたいのだと。
「僕がその暗黒の20代のときに出会って、俳優としてビシビシ鍛えてもらって、師と仰いでいる鈴木裕美という演出家がいるんです。裕美さんにはよく、『あなたは、20代の頃から売れたいという気持ちが明確だった。でもそれは、お金持ちになっていい暮らしがしたいとか、チヤホヤされたいという理由からじゃない。ただお芝居が好きで、一つでも多くのお芝居をする機会に恵まれたいだけ。売れることの先にある目的が、すごくわかりやすかった』と言われますね」
今となっては、「この先もし食えなくなったら、バイトしながら、自分で脚本を書いて、小ちゃい小屋でもいいから芝居は続けたい」と考えるようにもなった。
「そんな形で年に何本か芝居が打てて、自分でも芝居ができる機会が持てるんだったら、それだけで十分幸せだよなあ、なんて思ったりもします。ただ、せっかく芝居をやるからには、多くの人に観てもらいたい。そういう意味では、売れることの意味はある気がします」