失政が続く北朝鮮の金正恩氏。彼が「弱い指導者」である背景には、周りをかためる「赤い貴族」の存在がある。今後の北朝鮮と、日本はどう対峙していくべきが。AERA 2022年1月31日号から。
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金正恩(キムジョンウン)体制下での顕著な特徴のひとつが、「朝令暮改政治」だ。古くは12年2月、米政府との間で核実験と弾道ミサイル実験の停止で合意しながら、翌3月に長距離ロケットの発射を予告して、合意を破棄した。最近でも18年4月、正恩氏が韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領に「1年以内の非核化が可能だ」と語りながら、19年2月の米朝首脳会談では「寧辺(ヨンピョン)核施設以外の放棄は認められない」と主張した。昨年1月の党大会でも、新たな経済5カ年計画を大々的に発表しながら、翌2月に計画の一部修正に追い込まれた。
■国家主席に就任か
筆者は、こうした現象は正恩氏が「赤い貴族」とも呼ばれる側近たちと権力を共有する共生関係にあることから生まれる現象だと考えている。正恩氏が最高指導者だからといって、何でも好き放題できるわけではない。「1年以内の非核化」など「赤い貴族」にとって都合の悪い主張は、「それは最高指導者の利益にならない」といった適当な理由をつけて変更を迫るのだろう。
ただ、側近たちも、自分たちが特権階級でいられる唯一の根拠が、祖国を解放した金日成(キムイルソン)主席の血縁者(白頭山(ペクトゥサン)血統)を担いでいる事実にあることを知っている。だから、相次ぐ失政にもかかわらず、正恩氏の「権威」を維持することに躍起になっている。4月の金日成主席生誕110年を機に、正恩氏は国家主席のポストに就任するかもしれない。
こんな「弱い指導者」を戴く北朝鮮と私たちはどう対峙していけばよいのか。日本政府は今、日本人拉致問題の解決を最重要視するとともに、「無条件での日朝首脳会談の開催」を呼びかけている。北朝鮮は日本政府の呼びかけを無視している。
■拉致に対応する状況
問題の一つは、拉致問題を巡る日朝間のすれ違いだ。複数の関係者によれば、北朝鮮は14年から15年にかけ、水面下で、日本が05年4月に被害者に認定した田中実さん(失踪当時28)と「拉致の可能性を排除できない」とされている金田龍光さん(同26)が生存しているとの情報を伝えてきた。