
■ピンク映画館の「女装さん」
大人になってからも空き地や道路の割れ目、排水口など、変な場所に咲いている花を見つけると、少年時代の思い出が頭に浮かんだ。
それをいつから撮影するようになったのか、たずねると、「5~6年前かな」と、口にする。
「たまたま、仕事の通り道で、変ちくりんな咲き方をしていたアジサイを見つけたんです。それで、一応、撮っておこうって思って、シャッターを切った。すると、その写真が、なんとなく気になった」
それは確かに気になる写真で、「漫画喫茶」とある建物の隅にあるアジサイの枝が高く伸び、雨よけのテント地の穴から花が顔を出している。
「これは偶然、穴から花が出ているのか、それとも、枝がここまで伸びたから誰かが仕方なくテントを切ってあげたのか、分からなくて。その微妙なところがいいですよねえ」
山田さんはそう言って、ほおを緩める。
しかし、本格的に撮影を始めたのはしばらく後のことで、2020年秋からという。
「それまでは、ピンク映画館で『女装さん』の作品を撮っていたんです。なので、こちらのテーマは、アジサイを撮ったまま、置いておいた。映画館の作品を20年に発表して、写真集もつくった。それで、一つ区切りついたので、こっちを撮り始めた」
それは「ある意味、ちょうどいいタイミングだった」とも言う。
「コロナ禍になって、ピンク映画館がどんどん閉館したうえ、行っても人がいなくなりましたから」

■なぜ、長野県に「いい物件」が多いのか?
山田さんは、自分の原風景に根ざすような、「そこに咲いてしまった感がある花」を探し歩いた。
普段、歩いていると、何げなく目にするような光景。しかし、いざ、探して写すとなると、なかなか大変そうだ。
「まったく、そのとおりで、ほんとうに見つからない。しかも、そこそこ見栄えがするものって、すごく限られてくるし、そこに生活の匂いがないと面白くない。なので、とにかく歩くしかない。私は目いっぱいやらないと、やった気がしない人なので、徹底的にやりましたね」