社名の由来は情報の「ストック」を生かすサービスから。会社のキャラクターは餌を巣にストックするリス(撮影/写真部・松永卓也)
社名の由来は情報の「ストック」を生かすサービスから。会社のキャラクターは餌を巣にストックするリス(撮影/写真部・松永卓也)

 スタートアップが成功する条件に「時の利」がある。どんなに優れた製品やサービスでも、必要な要素技術がそろい、ニーズが高まっていなければ「早すぎた」で終わってしまう。ストックマークは時の利をつかんだ。

 インターネットの爆発的な普及が始まったのは「Windows95」が出た1995年。最初はメール、次は写真、そして動画。ネットを流れるデータ量(フロー)は幾何級数的に増えている。一方、流れたデータはかつては社内のサーバーに、今は米アマゾンの「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」やマイクロソフトの「AZURE(アジュール)」といったパブリッククラウドのデータセンターに蓄積(ストック)されている。

 大企業の若手が四半世紀にわたってPCで作り続けた資料は、社内のサーバーかパブリッククラウドの中に眠っている。財務データも税務のデータも、海外市場の分析データも顧客データも。あらゆるデータがストックされているのが現代だ。

外から日本文化を見る

 情報をいかに早く手に入れるか。いかにスムーズに共有するか。企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略はフロー中心になりがちで、ストックを有効に利用しようというサービスはまだ少ない。95年では難しかったかもしれないが、今はストックがふんだんにある。伊藤忠商事でシャドーワークに追われながら、林はそれに気づいた。

 林の両親は台湾の人で食品の貿易業を営んでいた。80年ごろ、バブル経済を予感した両親は、一旗揚げようと来日。林は86年に日本で生まれたが、小学校までは台中で育った。親も子も日本語の機微が分からない。

「これはどういう意味?」

 学校で分からない言葉に出くわすと、家に帰って親子で考えた。外から日本文化を見て育った彼は「認知バイアスが少ない」と自己分析する。日本文化の中で育った人が「普通これはやらない」「そんなのできっこない」と思うことを、社会通念で決めつけない。人がやらないことを「面白そう」「やってみよう」と考える彼は、なるべくして起業家になったと言える。

 林は東京の下町・北千住でヤンキーが幅を利かせる公立の中学に通った。彼は学校を表で取り仕切る生徒会長、親友は裏で仕切る番長だった。学業優秀の林は都立日比谷高校に進学。生徒を大人扱いする放任主義の校風をいいことに、林は授業そっちのけで図書館にこもり、夏目漱石から哲学書、海外の小説まで手当たり次第に読みあさった。

 東京大学文学部の宗教学科に進み、年の半分はバックパッカーとして海外を回った。

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