プーチン大統領は「ロシアは世界最強の核大国の一つ」などと欧米を脅しながらウクライナ侵攻を進めている。ロシアが核のボタンを押す可能性はあるのか。「ウクライナ侵攻」を特集したAERA 2022年3月28日号の記事から紹介する。
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気晴らしのゴルフに興じていた米国大統領のスマートフォンに、米戦略軍の将軍から緊急連絡が入った。
「私の目の前のスクリーンによると、ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)400発が米本土に向かっており、約10分で着弾します」
大統領は避難するためヘリコプターに駆け込みながら、同行する軍の側近に「フットボールを開け」と命じた。黒いブリーフケースには大統領が核攻撃を実施する際に必要となるセキュリティー防護された電話や認証コード、核攻撃のオプションなどが収められている。
ロシアのミサイルが米本土に着弾する前に発射しないと、ミサイル格納サイロがつぶされ、報復ができなくなる。大統領は「核攻撃にさらされて座視しているわけにはいかない」と発射命令を出す。米国では核兵器の使用は大統領の専権事項であり、だれの承認もいらない。
しかし発射後、ロシアからの攻撃ではなかったことが判明した。何者かが米戦略軍のコンピューターをハッキングし、大規模なミサイル攻撃があったかのように見せかけたのだった。
米国大統領はロシア側に「攻撃していない」とのメッセージを送ったが、ロシア大統領は「その手は食わないぞ」とつぶやき、「大量報復」を命令。計1千発の核弾頭が米国に向けて発射された。米国大統領が乗ったヘリコプター近くでロシアの弾頭が爆発、炎がヘリコプターを包み込んだ。米国大統領はスマートフォンで「ロシアが核戦争を始め、報復するしかない」とツイートしたが、携帯電話サービスは機能していなかった。
「核兵器で報復」と明言
これは、米ソ冷戦期に米国の核戦略を担ったウィリアム・ペリー元国防長官の実体験をもとに、著書『核のボタン』(朝日新聞出版)で描かれた米ロ間の偶発的核戦争勃発のシナリオだ。いま世界が憂慮し、固唾(かたず)をのんで見守るのは、これとは逆に、隣国ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が意図的に核兵器を使う事態である。