日本赤十字社医療センター緩和ケア科部長の高橋尚子医師は、こう話す。
「薬の種類が増えて、以前なら大変な苦痛を伴う症例が、いまはそこまで苦しむことは減ってきました」
前述の木澤医師も言う。
「昔は痛みを我慢することが当たり前でしたが、いまはだいぶ改善されました」
一方で、いまでも痛みをとるために使う医療用麻薬への誤解は残っており、これが適切な治療の妨げになることもある、と木澤医師は言う。
「モルヒネ(医療用麻薬の一種)を使うと寿命が短くなるとか、医療用麻薬を続けているといずれ効かなくなる、などと思い込んでいる人がいます。腫瘍が大きくなることで痛みが強くなれば薬を増量することはありますが、腫瘍の大きさが変わらなければ薬の効果は変わらない。標準治療中でも適切に使用すれば、医療用麻薬ががん治療と干渉し合うこともありません」
■「その先の生活で何を目標とするのか」を共有する
しかし、痛みのコントロールに限界があることも事実だ。木澤医師が続ける。
「膵がんの痛みや、大腸がんや子宮・卵巣・泌尿器系のがんによる骨盤内臓痛などは、薬剤のみではコントロールできない場合もあり、ペインクリニックと連携して神経ブロックの適応を早期から検討します」
高橋医師も言う。
「人によって『痛みが和らぐ姿勢』などのコツがあるので、それを有効活用することも大切です。そのうえで、ゴルフは難しいけれど、家族との食事ならできる――など、目標を見直してもらうこともあります」
標準治療が終了した患者でも、“見た目”は元気なことが多い。簡単な仕事や家事ができたり、中には旅行に出かける人もいる。
「それだけに、その先の生活で何を目標とするのかを、患者と医師が十分に話し合い、共有する必要があります。緩和ケア医は、その患者がどんな人生を送ってきて、これからどんな人生を送りたいのかを知らなければいけません」(木澤医師)
■がんは、死の直前まである程度元気な状態
標準治療の終了は、遠くない地点に人生のゴールがあることを意味する。高橋医師は言う。