ナターシャさんは会場で、唱歌「ふるさと」を日本語とウクライナ語で歌った。

♪忘れがたきふるさと……

 透明感あふれるナターシャさんのアカペラが、青空の下、代々木公園に響く。黄色いジャケットに青いストール姿。ウクライナ国旗をイメージしているのは言うまでもない。日夜砲火にさらされているウクライナ。思いをはせる参加者の中には目頭を押さえる人も少なくなかった。

 その後、参加者は250人前後に分かれて渋谷駅、明治通り、原宿をぐるっと回って会場に戻る3キロほどのデモに出発した。

 葛飾区から友人と3人で参加した小野聡さん(82歳)は5歳の時に、当時住んでいた都内向島と転居先の王子で2度も米軍の空襲を受け、逃げまどったという。

「焼夷(しょうい)爆弾がヒューヒューいいながら次から次へと落ちてくる。どこもかしこも火の海で逃げようがなくてね。生き永らえたのが不思議なくらいでした。幸い我が家から死人は出ませんでしたが、親戚や友達が何十人も死にましたよ。あんな思いは孫たちには絶対させたくはない」

 イラク戦争が始まった03年2月から毎週土曜日に、新宿駅西口地下広場で反戦スタンディングを続けているという大木晴子さん(74歳)の姿もあった。大木さんは、1969年に同広場で行われた「フォークゲリラ」の歌姫。反戦平和活動は50年を超える。

「戦争は地獄です。殺されてしまう人も、そしてその死を抱えて生き残っている人もです。平和は育まなければ手にすることができません。今日の集会を継続することが大切だと思いました。長い年月、日本が戦争をしないでこられたのは、平和運動をされてきた先人たちがつながってきたからではないでしょうか? これからもそんな人たちに感謝しながら自分流に頑張ろうと思います」

 遅々として進まないロシアとウクライナの停戦交渉。すでに「故郷を離れざるを得なかったウクライナ難民は1千万人を超えた」(国連難民高等弁務官)。一日も早い終戦を願ってやまない。

(高鍬真之)

 ※週刊朝日オンライン限定記事

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