Moss manの貴重な原画(イラスト:寄藤文平)
Moss manの貴重な原画(イラスト:寄藤文平)
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「当時は“忙しいこと”が今よりずっと「いいこと」だったんです。たくさん仕事をかかえて精力的に働くことが美徳のように考えられていました。でも、この10年でそういう考え方が大きく変化しましたよね。自分の時間を管理するというより、自分の時間の意味を考えるようになったように感じます。発売当初から帯に『チマチマした電子アプリではまねできないyPad』なんて強気な言葉を入れて、iPadの向こうを張るような構えでやってきたんですけど、今やiPadがどうこうという話でもありません。yPadの役目もこのあたりで終わりかなと思いました」

 日々マルチタスクをこなすビジネスマンをターゲットに、2010年に生まれたyPad。生みの親であるグラフィックデザイナーの寄藤文平さんは当時を冒頭のように振り返る。多忙を極めていたあの頃、夜討ち朝駆けの仕事ぶりは普通の手帳やデジタルデバイスでは管理しきれなかった。予定をカレンダーに落とし込みつつ、別紙に同時進行中のプロジェクトの進捗状況を書き出した。それを見開きに融合させて生まれたのがyPadだった。

 しかし、誕生から10年以上が経ち、そろそろ役目も終わったのでは、と発行を終えようとしたところ、根強いファンからの要望にこたえる形で、今年2月、装いも新たに『yPad moss』として復活を遂げた。

『yPad moss』のアレンジ案や有効な使い方を教えてくれるMoss manたち(イラスト:寄藤文平)
『yPad moss』のアレンジ案や有効な使い方を教えてくれるMoss manたち(イラスト:寄藤文平)

「2021年に発行を止めてみて、はじめてたくさんの愛着を持ってくださっている方々がいるんだと気づかされました。僕のところにも人づてに3人ぐらいから『本当にもうなくなっちゃうの?』って問い合わせが来たんですよ。僕、友達が少ないんです。3人も連絡があったら、友達の60%ぐらいが気にかけてることになるので(笑)。そんなこともあって、版元さんに再スタートをお願いしたんです」

 しかし、一度終わったと思ったものを再発するには新しい定義づけが必要だった。

「ただ、これまでと同じものを反復するのではなくて、新しいyPadとして考えたかったんですよね。yPadの冒頭には毎回、yPadの使い方を解説するページがあります。これまでずっと、淡々とした解説図で構成してきました。今回はそこに、現代に合ったyPadの世界像を描いてみたいと考えました。どんな世界像がいいだろうかと考えて、『スマホを持った原始人』というキャラクターに思いたりました」

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もともと苔が好きな少年だったという寄藤文平さん