「最初からデジタルでしたから、フィルムにのめり込みましたね。そこまで何かに熱中するということは人生でまったくなかったんです。フィルムはでき上がりが想像できないですよね。化学反応による変化だから、そのリアル感が新鮮で。すべてがコントロールできることは技術としては理想的ですが、思いがけないイレギュラーがアナログ的に起こったりすることは、楽しく受けとめられるんです」
大学2年の終わり頃から、自分だけにしかできない作品、誰も見たことのない写真を模索した果てに、現在の手法に至った。さまざまなメディアから得られた、いわば知られている写真と、現地で撮影された写真。二つが横並びになることで、どちらかだけでは見えてこないものが立ち上がってくる。吉田さんの作品は現在の写真がはらんでいるそのような性格を、浮き彫りにしているとも言えるだろう。
■世界の不確実性を示す
この吉田さんの作品を選考委員は次のように評した。
「彼女はデジタルデータを形ある“モノ”として捉えていて、データと“モノ”の間でそれらを何度も入れ替えながら頭の中にある感覚的思考をイメージに落とし込んでいくのがうまく、そういったプロセスからでき上がった作品は現在の世界がいかに不確実性で満ちているかを示しているかのようです」(澤田知子氏/選評より抜粋)
「恒常的なイメージの過剰供給社会に生きている現実を、一旦、踏まえた上で、では何を撮るのかという問いと、その答えとしての写真の見応えが均衡しており、作家の時間的・空間的な経験が、鑑賞者に追跡されるドラマも効果的だった。山や鯨といった被写体は、ネット上に散乱する写真を凌駕して環境と結び合った存在感を示している」(平野啓一郎氏/選評より抜粋)
吉田さんは、写真表現の文脈の中で新しい提示方法を模索している。どんなオリジナリティーを提示できるのか。吉田さんが作ろうとしているのは、写真だけが生み出すことのできる「新しい風景」なのかもしれない。(写真編集者・池谷修一)
※AERA 2022年4月4日号