「ハードディスクいっぱいになっていた山の画像を積み重ねていくだけで、新しい『山』が作れないかなと考えたことが、制作のきっかけです」
実際の山と比べても引けを取らないと感じた膨大な画像の質量。それが積み重なり、「作品という山」にもなるという発想。バーチャルとリアルが共存する吉田さんらしい世界がここにある。キーワードや画像検索で行きたい山を検索、そこにまつわる画像をプリントし、実際にその場に持ち込み撮影している。
房総半島の南部、千葉県館山市の出身。温暖な海沿いの町で自然に囲まれて育った。大きな山がない土地柄で、漠然と高い山に憧れがあったそうだ。
「1990年代とは思えない田舎暮らしをしていました(笑)。大学2年まで雪をまともに見たことがなかったほどなんで、憧れもあって雪山を撮り始めたということもあるんです」
ほかに受賞の対象となったシリーズ「砂の下の鯨」は、よりパーソナルな体験に基づいた作品だ。
「地元の海岸線を航空写真によって何キロも追っていたとき、そこに見慣れない小さな囲いのようなものを見つけて妙に気になりました。調べると、帰省していなかった1、2年の間に鯨が座礁して、その囲いのなかに埋められていることを知ったんです。実家のそばで慣れ親しんだ場所なだけに、自分がいないことで、まるで知らない場所になってしまうことが面白くて」
■完成が想像できない
鯨は3メートルほどと小さかったが、その場に立つと風で作られた砂紋が鯨の皮膚のように思えたという。
「ここに埋まっているという事実を知ると怖くなりました。その埋まっている鯨をどうすれば撮影できるか、見えないものをどうやって絵にするか、そこが自分の制作で大切なところです」
高校時代に運動部が嫌になった。積極的な経緯ではなく、ひとりで完結できる写真を始めた。大学ではフィルム写真にどっぷり浸かり、ひとときは授業をサボり、早朝から大学の暗室にずっと入っていた。