目の前で日本人女性がソ連兵に強姦され、自身は脇腹を銃で撃たれた。軍医が麻酔なしで腹を割いて鉛の弾を摘出し、縫合もできぬまま3カ月間激痛に耐えた。道中では馬の尿や尺取り虫を口にしたこともあった。
反戦や核廃絶への思いをメディアで訴えてきた宝田さんは、最近も取材のたび、ロシアのウクライナ侵攻に対して、「あの頃の自分たちを思い出す。気になってしょうがない」と憂えていたという。
別れはあまりに突然だった。草笛さんは訃報に接した時の気持ちを「嘘みたいでした」と話す。
「お互い丈夫で、『死』なんて言葉使ったことがなかった。最後に会ったのは1、2年前。私の家に遊びに来て、『二人でつるんで舞台やりたいよ。くりちゃん、いい?』って。私には、元気なおたかの顔しか浮かばないです」
新作映画という形見を残して旅立った宝田さん。手向けの言葉を問われた草笛さんは、きっぱりとこう口にした。
「映画をプロデュースして主演を務めるのは大変なこと。あんなに頑丈で大きな体でしたけど、疲れ果てたと思います。同じ仕事をしていますから、それだけはよくわかる。でも、最後まで戦って、パッと散った。ほんとにえらい。お見事ねって言いたいです。私もあとから行くから、待っててね」
(本誌・大谷百合絵)
※週刊朝日 2022年4月8日号