AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『昭和・東京・食べある記』は、森まゆみさんの著書。昭和の東京に生まれ育った著者が、子ども時代から現在まで、記憶に残る東京の老舗を訪ね歩いた食紀行。上野、浅草、銀座・日本橋、神田・神保町など13のエリアから、天ぷら、とんかつ、そば、カレー、中華料理、フルーツパーラー、大衆酒場など39の名店を選び出し、店の歴史から代々続く店主の「昭和史」と数々のエピソードを聞き書きで描き出す。後継者たちへのエールも込められている。森さんに、同書にかける思いを聞いた。
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作家・森まゆみさん(67)は東京都文京区駒込動坂町(当時)で生まれ、高度経済成長期から現在まで、変わりゆく東京の風景を見て育ち、東京を味わってきた。本書は森さんの外食体験をベースに食べ歩きと聞き書きでルポした『「懐かしの昭和」を食べ歩く』(2008年 PHP新書)をあらためて巡り直し、取材した昭和食紀行である。
洋食、天ぷら、そば、ベーカリー、どじょう、うなぎ、すし、おでん、フルーツパーラー、喫茶、中華料理、ロシア料理、もんじゃ焼き、などジャンルは多岐にわたるが、基本は昭和から続く老舗だ。エリアも、上野、浅草、本郷、神田・神保町、銀座・日本橋、新橋、町屋など、全体を俯瞰(ふかん)すると東京の東側が多い。
「東側のほうが思い入れが強いですね。老舗も多いし。意外に老舗って強いと思ったのは、そこに通うファンの癖が付いていることかな。癖ってのは大事で、浅草に行ったらあそこで食べようとか、寄席に行ってからお目当てのあの店に寄ってとか、あるでしょう」
一口に老舗といっても、代替わりで商売を広げ味が落ちたり、コロナ禍で閉めたところも少なくない。しかし今回取り上げた店々は、いずれも代々の味と歴史を継いだ後継者たちの心意気が健在だ。
たとえば新宿・歌舞伎町で名物のとんかつ茶漬けが評判の「すずや新宿本店」。前著では創業者の鈴木華子さん(故人)から版画家・棟方志功が自筆でメニューを書いてくれたことなど数々の秘話を聞き、今回の再訪では4代目の孫、杉山草子さんが、店の味とともに歌舞伎町の街づくりにも尽力する姿が生き生きと描かれる。