「つまり、お金のために動いてはダメだという不文律が出来ていったんでしょうね。持続可能な会社を模索する上で、これはやるべきかやらざるべきか。みんなで討議したときに、何を優先するべきか。会社を大きくしないという方針もそう。そこからはもうブレなくなったんでしょう」
ちなみにわたしが「ヘンな会社だ」と東風のことを意識しだしたのは、東海テレビのある作品の試写を見たときのこと。否定的な感想しか持てなくて、「阿武野さんの考えを聞いてみたいくらいだ」と東風のメンバーに言うと、「ぜひ聞いてみてください」とインタビューをセッティングしてくれたことがあった。
そのときの問答をnoteというブログに載せたところ、業界関係者から東風に「あれ、大丈夫なの?」と心配する声が寄せられたという。近年の映画取材は記事の事前チェックが慣習化し、ライターも宣伝に忖度するところがあるからだろう。
ポレポレ東中野の大槻は、「あの作品は、私も出来が悪いと思いましたよ。それは木下さんにも話した。彼らも正直に阿武野さんに感想は言ったんだと思う。だからといって是々非々というのでもない。どんなに真面目に作っていても、うまくいかないことは世の中にいっぱいありますから。だから、ちょっと作戦立てましょうと言ったの」。
劇場での上映回数は決まっている。「木下さんは作品にベストの回数と時間帯を探ってくる。そこがまた彼らの面白いところでしょうね」
他社と同じく東風の宣伝活動のひとつに、ツイッターの公式アカウントづくりがあるが、異色なのは酷評であってもリツイートしていることだ。
阿武野は言う。「彼らは金太郎あめが嫌なんでしょうね。ネガティブなものでも、作品をどう観たのか。論じる姿勢があれば、どんどん書いてもらってもいいですというのはありますね」
末尾になったが、『主戦場』裁判は、今年1月末、原告側の訴えを全面棄却する一審判決が東京地裁で出た。(一部敬称略)
※週刊朝日 2022年4月15日号