
ヒルの“襲来”も受けた。
「下から上がってきたり、上から落ちてきたり……キャストはなんとか無事でしたが、スタッフは血だらけになりました。大画面でよく見ると、ポトンと落ちてくるところも映っています(笑)」
困難の連続の山中での撮影だからこそ、見えてきたものもあるという。
「撮影中に、主人公の少年を演じた杉田雷麟さんが、『自然に撮らせてもらっているような感覚になりますね』と言っていました。まさに与えられた恵みをいただいているような感覚です。人間が制御できない、だからこそ美しいものができるということを強く感じました」
主人公が出会うサンカの娘を演じる俳優・小向なるは、役作りのためトレイルランニングを習得し、鮮やかに山道を駆けたという。場面の端々に、フィクションであるのにドキュメンタリーのような空気を感じる。それは、自然という演出できない存在をカメラに収めたせいでもあるのか。
「天候も変わっていくので、同じ場面を二度と撮り直せない。起こったものをそのままカメラに収めた部分もあるので、ドキュメンタリーに近いのかもしれませんね。セットという虚像と違い、自然の中では役者は全部剥き出しにされるから難しいとも言われます。悪天候などで本番以外もなかなかリラックスできなかったと思うので、演技を超えた空気感も表現されているかもしれません」
1965年という時代設定について、こう語る。
「俺たちがこれからの日本をつくっていくんだという思いがあった世代で、それがうらやましくて触れてみたかった部分もあります。私の父は木工職人で、毎日、木のにおいをさせて帰ってきた。それはどこかほっとするにおいで、今思えばそれが私にとっての自然に対する原体験としてのひとつだったのかもしれません」
映画を通して、まずはサンカという人々がいたことを知ってもらいたいと、笹谷監督は言う。
「自然の中、山の中に入ったときに感じることは人それぞれあると思うのですが、それを感じることそのものが、今求められているんじゃないかという気がします」
(本誌・太田サトル)
※週刊朝日 2022年4月22日号