笹谷遼平監督 (c)六字映画機構
笹谷遼平監督 (c)六字映画機構

「1年目に最終選考まで残り、2年目には審査員奨励賞もいただけました。日本における自然と人間の関係に迫り、自然の中で撮る力強い映画を、サンカという存在を通して撮ってみたいという強い気持ちがありました」

 笹谷監督がサンカの存在を知ったのは、今から約10年前、友人宅の本棚にあった一冊の本がきっかけだったという。

「本のタイトルは覚えていないのですが、山から山へと旅を続けて生きる人たちがこの日本にもいたということに驚きました。高校生のときに欧州のロマの人々を描いた映画を見て以来、いろいろなものに縛られずに生きる人たちへの強い思いや憧れがもともとあり、それらが自分の中で結びついたんです」

 前作「馬ありて」の撮影中の岩手県遠野の山中での経験も、笹谷監督のサンカへのこだわりに大きく影響したという。

「人でないものに見られているような感覚があり、ゾクッとしました。そのとき、自分は自然と調和できるような存在ではないんだということを痛感しました。しかし、かつては自然の中で生きる人たちが確かに実在した。いったいどんな人々だったのか。自分の中での永遠のテーマでもある、古来あった自然と人間との関係、そこになんとか近づきたいという思いが一番の原動力です」

 制作にあたって、民俗学者の著書をはじめとした文献を精読、サンカを扱った中島貞夫監督、萩原健一主演の映画「瀬降り物語」も参考とし、中島監督には幼少期にサンカに直接会ったという話を聞いた。

「いずれにしろ、サンカはこれだ!という明確な世界観はなくて、生活の仕方や場所などは謎に包まれた部分が多いです。私はサンカの再現というより、自然に抱かれ、根ざした人々の暮らしの再現を目指すことに苦心したと思っています」

 映画は賞金の100万円と自費、クラウドファンディングをもとに、群馬県中之条町の山中で19年の夏、2週間かけて撮影された。

「撮影が始まるなり、自然からの洗礼のように豪雨を浴びました。やむ気配もなく川はどんどん増水して。全員下着までずぶ濡れでした」

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