「山歌」の場面写真 (c)六字映画機構
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 山々を渡り歩きながら暮らしたとされる「サンカ」をテーマにした、一本の映画が公開される。自然と人間との関係をテーマにした作品を撮り続ける笹谷遼平監督(36)に、制作に込めた思いを聞いた。

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 住居も戸籍も財産も持たず、山から山へと放浪を続け暮らしてゆく。かつての日本にもそんな人々が存在した。彼らは「サンカ(山窩)」と呼ばれた。山中に作った簡単な小屋に暮らし、竹細工の籠や箕(み)、椀、川魚や山菜などを山里に下りて売ることもあったという。

 日本の山々とともに生きた人々は、昭和の中ごろまで実在したが、戦後の発展に合わせるかのように、その存在は確認されなくなった。

 そんなサンカをテーマにした映画「山歌(サンカ)」が公開される。

 舞台は高度経済成長真っ只中の1965(昭和40)年。受験勉強のため東京から引っ越して地方の祖母の家で暮らすことになった主人公の中学生・則夫は、あるとき山道で偶然サンカの家族と出会う。窮屈な日常を生きてきた少年の心は、現代社会の枠組みの外で山とともに生きる彼らの世界に次第にひかれていく。そんななか、村の発展のためという理由で、山に開発の波が押し寄せる。そのとき則夫がとった行動は……。

 監督は、北日本の馬文化をテーマにしたドキュメンタリー映画「馬ありて」など、自然と人間との結びつきというテーマにこだわり続ける笹谷遼平さん。笹谷監督の手によるシナリオが、「伊参(いさま)スタジオ映画祭シナリオ大賞2018」で大賞を受賞したことによって映画化された。今回の「山歌」が自身初の長編劇映画作品となる。

「本当はドキュメンタリーを撮ってみたい思いがありましたが、サンカという人たちはもういない。一方で、劇映画に対する自分なりのアプローチをしてみたいという思いもあったので、サンカについての物語を書き、なんとか劇映画という形にしてみたいと思いました」

 映画祭には2016年から大賞を受賞した18年まで、3回にわたってシナリオを応募。すべてサンカがモチーフで、その思いを結実させた。

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