近年、「転生」系が人気のライトノベルだが、どんな注目作があるのか。AERA 2022年5月2-9日合併号の特集「今読みたい本120冊」では、各ジャンルの専門家がおすすめの本を10冊ずつ紹介。その中から、医師で作家の津田彷徨さんが選んだ作品をお届けする。
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ラノベは10代向けのイメージかもしれませんが、1980年代の黎明期から40年近く歴史があります。ヒット作が漫画やアニメ、ドラマなどで展開されることも一般的になりました。
2004年に開設された大手小説投稿サイト「小説家になろう」には95万作近くが投稿され、ユニークユーザーは1400万人、月間20億PVといわれます。
10年以降、主人公が異世界に行き活躍する「異世界転生」が隆盛していますが、男性主人公の場合、桁違いの能力で大活躍する「俺TUEEE」系、女性の場合、シンデレラの姉のような悪役に転生してしまい、ヒロインに打倒される運命に立ち向かう「悪役令嬢」モノが王道のひとつになっています。アイデア勝負の側面もあり、スライムや温泉までありとあらゆるものに転生しつくした感があります。
作り手から見て明快にわかるのは、読み手が短文を好むということと、つらい話は受けないということ。つまり、多くの人が寝る前や通勤・通学中にスマホで、息抜きとして読んでいるんです。何が受けるか、いつ更新すべきかを分析して書く作家もいます。が、稀に出る流れを変える作品は、必ずしも分析に基づいたものではありません。
成熟した社会人が読んでも面白いものがたくさんあります。例えば、『辺境の老騎士』は重厚なファンタジーです。『現代社会で乙女ゲームの~』は、08年のリーマン・ショックや97年の北海道拓殖銀行の破綻など実際の金融問題をモチーフにしたif小説。「悪役令嬢」という形をとりながらも「半沢直樹」ばりの展開を見せる意欲作です。
ラノベレーベルからは米澤穂信さんなど直木賞作家も出ていますから、ラノベの世界も覗いてみると面白いと思います。