カンボジアでは3年ぶりに水かけ祭りが戻った(シェムリアップ。撮影:今永健太)
カンボジアでは3年ぶりに水かけ祭りが戻った(シェムリアップ。撮影:今永健太)

 バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」の番外編。今回は、4月に旧正月を迎えた東南アジアの仏教国の水かけ祭りについて。

【動画】誰彼構わず水をかける!カンボジアの「水かけ祭り」と大盛りあがりのボートレースの模様はこちら

 タイ、カンボジア、ミャンマー、ラオスの「正月」。人々は互いに水をかけあって祝う。日本では水かけ祭りと呼ばれることが多い。

 その光景を撮影した動画が次々に届いた。僕がユーチューブをやっていることもあるのだが、特に依頼をしたわけではなかった。新型コロナウイルスの感染が広まり、2年間、多くのエリアで水かけ祭りができなかった。ようやく……という思いがあったのだろう。

 しかし、感染の再拡大や国軍への抗議など、国によって、祭りはまったく違う様相をみせた。

 カンボジアでは3年ぶりに水かけ祭りが行われた。トラックの荷台から誰彼構わず水をかける。若者は“強力水鉄砲”で歩く人に放水。通りに歓声が響いていた。恒例行事のボートレースも行われた。行動規制もほぼない。

 一方、連日2万人を超えるコロナ感染者が出ているタイでは、大規模な水かけは3年連続で中止となった。

 しかし水かけをしたい若者は多く、今年は解禁されるのでは、とのうわさが出ていたことも影響したのか、4月13日の夜、バンコクのゲストハウス街でもあるカオサンで水かけが起きてしまった。

 翌朝からは大量の警察官が動員され、水かけは封じ込められた。カオサンの様子を見にいった、バンコクの建設会社勤務の男性Yさん(35)がこう話す。

「いたるところに警察がいて、通りも数人の警官が歩きながらハンドマイクで呼びかけ。もうなにもできない雰囲気でした。女性警官は威圧しないように白いTシャツ姿でしたが。それでも水かけをしたい子供が、路地裏で水鉄砲からちょっと放水する光景は目にしましたが」

 昨年2月のクーデター後も市民への弾圧が続くミャンマーでは、ねじれた水かけ祭りになった。クーデターを起こした国軍は、情勢が安定していることを内外に見せたいのか、水かけ祭りを推奨し、ヤンゴン市内では、自らコンサートステージを建てて盛りあげようとした。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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