自動翻訳の精度と速度の向上により、英語を学ぶ利点は薄れたように見える。しかし韓国出身で16歳で東大に合格したAI(人工知能)研究者のカリスさんは、それに異議を唱える。『AERA English2022』(朝日新聞出版)で話を聞いた。
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スマホが言語の壁を破壊した――人間の脳神経回路を模したディープラーニング(深層学習)によってかつてない進化を遂げたAI(人工知能)は、人間が話す「自然言語」の処理で大きな成果を上げている。翻訳においては、すでにアプリさえインストールすればいつでもだれでもスマホによる通訳が可能な時代になった。
そのようななか、英語を学習する意味やモチベーションは薄れつつあるように見える。しかしAIの研究で東大大学院博士課程を修了したカリスさんは「今だからこそ英語は重要」と話す。
大きな理由は三つある。まず、英語を学ぶことが独創性を生むからだ。人は言語を利用して考える生き物。ゆえに外国の言語を学ぶことは、単に文字や単語、文法を覚えるだけでなく、その言語独特の思想や文化も併せて学ぶことにつながる。
「日本的なものの見方が当たり前でないことを知ることで、自分のオリジナリティーを発見し、発揮することができるのです。こうした直観は、AI翻訳を使用するだけでは得られません」
また、世界の公用語が英語になっている以上、英語を話せることは「エリートとしてのマナー」にもなっているとカリスさんは言う。
「仕事をする上では、AIが通訳する際に生じるタイムラグを誰も待ってはくれません」
■「コスト」を払う姿勢が人間関係を良好に
とはいえ、いまやAI が翻訳にかける時間は短くなっている。スマホが媒介するコミュニケーションではだめなのだろうか?
「脳に直接AI を埋め込むような装置ができれば翻訳のタイムラグはなくなるかもしれません。でも現状では、スマホなどを媒介にするので、待ち時間が生じてしまいます。海外の友達と話すときなどは待ってくれると思うのですが、初対面で話すことも多いビジネスの場では頭の回転が遅い人だと思われてしまいます。だからこそ、英語ができないと活躍の場が限られてしまうのです」