5月10日、尹錫悦氏が韓国の新大統領に就任した。今後の日韓関係について、ジャーナリストで東亜日報の元編集局長、沈揆先さんが語った。AERA 2022年5月23日号から。
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5月10日、韓国の新大統領に尹錫悦(ユンソンニョル)氏が就いた。有力紙、東亜日報の元編集局長、沈揆先(シムギュソン)さんは、韓国政治は大きな転換点にあるとし、冷え込んだ日韓関係も変化する可能性を指摘する。
東京特派員の経験もあり、長らく日韓関係を見つめてきた沈さんは昨年、『慰安婦運動、聖域から広場へ』(邦訳は今年、朝日新聞出版から出版)を著した。韓国の慰安婦支援運動の象徴的存在である尹美香(ユンミヒャン)氏が業務上横領や詐欺罪などで在宅起訴された事件をテーマに、日韓の政府間対立のもとになっている歴史問題を深く掘り下げ、韓国側のタブーを赤裸々につづった。
韓国における日本問題は、韓国国内の左右両派の対立に翻弄(ほんろう)されてきた側面がある。日本との関係改善に強い意思を示す尹錫悦・新政権だが、少数与党の国会の構成など、足元が不安定な中での出帆を余儀なくされる。
懸案を進展させるには韓国の政治指導者の決断が欠かせない一方、日本政府が突き放した態度をとり続けるなら、新政権を孤立させることになりかねない。
──韓国の大統領選は常に接戦でしたが、今回は得票率差が1%未満で、右派の尹氏が文在寅(ムンジェイン)・前政権側の左派、李在明(イジェミョン)氏を振り切るという、歴史的な大接戦でした。
右派、左派ともに強く結集したということです。左派は政権の継続に、右派は政権交代に死活をかけた。今回は最後までネガティブキャンペーンが続き、最悪の候補の当選を避けるという意味で、次善ではなく「次悪」の選択と言われたほどです。それでも投票率が77%と比較的高かったのは、両派ともそれぞれが守ってきた価値を守らねばならないという強い危機感があったからです。