読めない名前で言えば、歴史上の人物にたくさんいます。例えば、大正天皇の生母の柳原愛子は「やなぎわらなるこ」です。平安時代の清和天皇の母親である藤原明子は、「明子」と書いて「あきらけいこ」と読むのが学界の定説となっています。
歴史をたどれば、中国から入ってきた漢字は、かつては「真(ま)名(な)」と呼ばれ、漢籍の教養を有するインテリ層しか使えないような文字でした。それが、戦後、「当用漢字」 が制定され、漢字使用が制限されます。五万字ともいわれる漢字を1850字に限定、曖昧だった音訓も定められ、複雑かつ多様だった字体も簡素化されて、国民の誰もが平易に使える文字として庶民に浸透していきました。その後、カジュアル化した漢字は、制限する必要がなくなるほど国民みんなのものとなり、やがて制限から単なる目安にする「常用漢字」に変更されました。
しかし、一見付き合いやすい文字になった今でも、漢字の背後には太古からの歴史が積み重なっています。そのため「常用漢字」しか知らない世代が、無防備に漢字の奥深い世界に踏み入ってしまうと、一般的ではない使い方を拾ってくることがあるわけです。キラキラネームなどは、まさにその一例ですね。
■「漢字」が「感字」に
名づけにはどの漢字を使ってもよいというわけではありません。現在、名づけに使える漢字は、「常用漢字」2136字と「人名用漢字」863字の計2999字です。その中に「腥」(せい)は入っていませんが、「月」と「星」と書くので、きれいなイメージを抱いて、名づけに使いたいと思う人もいるようです。でも、「腥い」の訓読みは「生臭い」。「腥」の「月」は「にくづき(肉月)」といって、筋のある柔らかい肉の象形が変形して「月」になったもので、「胸」「肺」「腸」など身体の部分などに関する漢字に使われます。同じデザインでも、お月様の「月」ではないのです。「胱」も、「月」と「光」でキラキラしたように見えますが、膀胱の「胱」ですから、人名にはふさわしくありません。もちろんどちらも使用外です。