それ以来、現在まで49年間、中絶は合法だ。
しかし今年5月2日、米連邦最高裁判所の過半数を占める保守派の判事たちがまとめた草稿の存在がリークによって発覚した。
それは「ロー対ウェイド判決」を覆す内容だった。
もし今後、6月下旬に米最高裁が正式にロー対ウェイド判決を覆す判断を下せば、中絶の合法・非合法は各州の判断に委ねられることになる。
そうなれば、保守層の強い南部では、中絶を非合法化する州が続出することも予想される。
マニスカルコさんは言う。
「あの時の私には、選択肢はほとんどなかった。現代の女性たちが当たり前に持っている選択肢と教育が当時の私にもあったらどんなによかったか。今からマスタード・バスに逆戻りすることだけは避けなければ」
迷わず渡した避妊ピル
マニスカルコさんはその後25歳で娘を出産した。現在45歳になる長女には複数の子供、つまり彼女にとっての孫がいる。
「もし私があのとき15歳で子供を産んでいたら、赤ん坊を養うことなど不可能だったし、今の私の人生もなかった」と彼女は言う。
マニスカルコさんの長女が15歳になった時には、親として迷わず避妊ピルを手渡した。
「娘は性行為などしていないと私に言ったけど、それが嘘であることはすぐわかった。自分もかつてそんな子供だったから」。
灼熱の太陽の下のLAデモで、マニスカルコさんは、娘や孫の世代を含む数万人の人々と共に「自分の身体のことは、自分で決める。その権利を守る」と声を挙げていた。
(ジャーナリスト・長野美穂)
※AERAオンライン限定記事