■シャイで社交ベタ
なぜ? という疑問が氷解したのはこの記述を読んだ時。<珍しいものを部屋に飾っておくことに意味があると、彼から聞いたことがある。部屋に珍品が置いてあれば、それをきっかけに話が弾むことがあるのだという。「自分はシャイで社交ベタだ」と自認する彼らしい工夫だ>
皇室にとって必須であろう「社交」が苦手だという秋篠宮さま。だが、それをしないわけにはいかない。だから変わったインテリアを置き、「自分」と「皇族」の折り合いを付ける。そうして秋篠宮さまは、「一人の人間=自分」と「立場」を何とか両立させている。
組織作りだけでなく、警備体制や被災地訪問の仕方など、秋篠宮さまがさまざまな改革を進めていることも書かれていた。前例にとらわれない改革こそが秋篠宮さまであり、それも自分と立場を両立させる方法の一つなのだろうと思えてくる。
生きていくとは、常に何かとの折り合いをつけることだ。だが、昨今の皇族が切なく感じられるのは、折り合いを付ける大変さが際立っているからかもしれない。そんな風に思いながら読み進めると、衝撃の記述に出合う。
■ヒツジに生まれたら
最終盤、江森さんは代替わり前から、秋篠宮さまが「抱負」や「決意」を口にしないことを改めて書く。気負わず職務を果たすのだろうとし、秋篠宮さまがふとした時に見せる「素」の話を書く。そして、随分前に口にしたという言葉を再現する。
「今度、生まれてくるとしたら、人間ではなく、ヒツジがいいかもしれない。ヒツジになってひねもすのんびりと草をはんで……ヒツジに生まれてきたら、なんとなく楽しいかもしれない」
幼い頃、ペットのヒツジを可愛がっていたという秋篠宮さま。だとしても、余りに切ない。
だから最後に、秋篠宮家の次女佳子さまのことを。5月7日、佳子さまは「第31回森と花の祭典『みどりの感謝祭』」に出席した。秋篠宮さま、眞子さんと受け継いできた名誉総裁に初めて就任、参加者を前に挨拶した。
佳子さまは、花柄のレースの上下に薄いピンクのジャケットを着ていた。女性皇族の柄ものの服を初めて見た。レースの花にもピンクが散り、とても明るかった。3年前、眞子さんは淡い緑色のワンピースでこの式典に出席した。そちらが普通で無難なのに、佳子さまは変えた。
前例踏襲せず、好みのファッションを選んだ。そう理解すれば、それが佳子さまなりの折り合いなのだと思えてくる。自分と立場。重ならずとも、折り合いをつける。佳子さまの花柄がまぶしかった。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2022年5月30日号