耳の聞こえない親から生まれた耳の聞こえる子どもたち、コーダ(CODA=Children Of Deaf Adults)。家では手話、外では口話を話すコーダたちは、どちらの世界にも馴染めない。米国で暮らすそんな子どもたちを3年間追ったドキュメンタリー──。連載「シネマ×SDGs」の8回目は、米カリフォルニアでコーダに取材し、映像化した松井至監督に話を聞いた。
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「東日本大震災のとき、ろう者たちはどうやって津波から逃げたのだろう?」。その疑問がすべての始まりでした。番組制作を通して手話通訳者のアシュリーと出会い、コーダという言葉を教わりました。
「コーダの概念は1980年代に米カリフォルニアで始まった。コーダはろう者の家族やコミュニティーのなかでは『聞こえる人』として孤立し、学校では障害者の子として差別される子もいる」と。
コーダがどんな思いを抱えているのか、本場で取材しようと決めました。僕は英語も手話もほぼできませんでしたが、主人公の一人となるナイラに出会ったとき、その表情から感情が直接的に伝わってくることに驚きました。全身を使って手話をする、ろう者の世界のコミュニケーションに親密さを感じました。しかし最初に作った3分間の映像をナイラに見せたとき、「私の物語は私のもの」と言われました。僕は取材者としての自分の姿勢がいかに傲慢(ごうまん)だったかを思い知らされました。そこで彼女に「あなたがディレクターになってください」と頼みました。他の主人公のMJやジェシカにも同じように言いました。彼らを「かわいそうな存在」として捉えるのではなく、孤独感や親からの自立など思春期に誰もが感じる悩みを深く体現している人として、共に映像を作りました。
僕がコーダから学んだのは「他者の靴を履いてみる」ことだったと思います。僕たち聴者の世界がいかに言語に頼りすぎているか、それによって性別や属性などの分別がなされ、差別につながるか、気付きの機会をもらいました。コーダもろう者も聴者も社会的な属性で隔てられている部分が大きいと気づいたとき、人と人の間のバリアーが解除されていくのではと思います。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2022年6月13日号